「顔料」の説明 


 うるしに色をつける為に必要なもの「顔料」



 生漆を精製したうるしは2種類の系統に分かれます。
 透素黒目漆と黒素黒目漆で、それぞれ茶褐色と黒色をしています。

 うるしの色味でもっとも代表的なものに「黒」と「朱・赤」があります。
黒は黒素黒目漆(以降【黒漆】)そのままですが、「朱・赤」のうるしは、透素黒目漆(以降【透漆】)に赤色顔料を混ぜて作った顔料入りのうるしになっています。

 これを「色漆(いろうるし)」と呼び、精製うるしである「透漆」や「黒漆」と各色の「顔料」を混ぜることで、朱や赤のほかにも、「白」「灰色」「黄色」「オレンジ」「緑」「青」や「チョコレート色」などの色漆を作ることができます。


 「塗料」と「うるし」の中身


 
 色漆に用いる顔料は「赤色系」と「白色」、そして「その他の色」に大別されます。

 「漆塗り」が「弁柄(べんがら)」という赤色顔料を定着させるためのバインダー(のり)として使われだしたことを起源としていることから、とりわけ赤色系の顔料は種類が豊富で、それだけで1つのジャンルに分けられます。

 赤色顔料には古くから用いられている酸化第二鉄の「弁柄(べんがら)」、硫化第二水銀の「水銀朱」という無機顔料と明治以降に作られるようになった「有機顔料」があります。

 そして赤色系以外は、明治以降になって色材技術が発展するまで「茶褐色のうるしに混ぜてきちんと発色する顔料」が技術的にほとんど得られなかったため、比較的新しいジャンルに分けられます。その「赤色系以外」の顔料のベースには「白」を出す「二酸化チタン」があり、その二酸化チタンと有機化合物の色素、硫酸バリウムで構成された「その他の色」の顔料があります。

 この「その他の色」の顔料を「有機顔料」と呼び、前出の赤色系「有機顔料」も同じ考え方で作られています。


うるし用顔料の分類





  それぞれの「顔料」について  



赤色顔料① 「弁柄(べんがら)」



 弁柄は酸化第二鉄を主成分とする人類と最も付き合いの長い赤色顔料です。
 縄文時代から古墳時代にかけて、死者の埋葬時に遺体や棺、石室や副葬品に弁柄等の赤色顔料を施す「施朱」という風習があり、この副葬品に弁柄の粉を塗り固めるためにうるしが使われるようになったのが「漆塗り」の起源であるといわれています。

 弁柄は現在でも様々な分野で着色剤として幅広く用いられていることから供給量が多いため価格も安く、人や環境にも害のない非常に扱いやすい顔料です。

 色調は錆色っぽい赤色をしていいて、「透素黒目漆(透漆)」と混合すると、やや黄みがかった赤(弁柄漆)になり、「黒素黒目漆(黒漆)」と混合することでチョコレート色の潤漆(うるみうるし)になります。

 混合量は、精製うるし:弁柄=8:2~7:3(重量比)といった範囲。






赤色顔料② 「水銀朱」



 水銀朱は水銀の化合物(硫化第二水銀)でできた顔料で、赤色顔料としては弁柄に次いで歴史が古く「施朱」に用いられることもありました。

 鮮やかな赤色が得られることから重宝されましたが、「水銀」という法規制の多い重金属の化合物であることから、現在では文化財の修復用途を目的にわずかに生産が続けられているにとどまります。普段使いの漆器に使用されているケースも一部にはありますが、その取扱いにはあたっては「労働安全衛生法」、「水質汚濁防止法」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」、「土壌汚染対策法」等の各種法令に留意する必要があります。
『適用法令:顔料メーカーの資料より』

 純粋に「顔料」としては発色や分散性、混練した朱漆を塗った時の塗膜の平滑性なども良く、むしろ初心者にこそ扱いやすい「顔料」なのですが、上記のような「法的な取扱いの難しさ」から、こだわりのある作家や文化財修復用途の他にはあまり使用されません。




赤色顔料③ 「新王冠朱」(有機顔料)



 「新王冠朱」は有機化合物の色素と二酸化チタン、硫酸バリウムからなる「有機顔料」に分類される赤色顔料です。製品名に「新」とつくのは「旧」があったからで、昭和の時代には「(旧)王冠朱」という、硫化水銀カドミウムを主体とした赤色顔料がありました。(※ 製品パッケージには「硫化カドミウム」と表示されています。)

 この「(旧)王冠朱」は「水銀朱」の「顔料の比重が重いため、うるしと顔料を混練して朱漆を作っても、その後数日間静置すると顔料が液中で分離沈降してしまう。」という欠点を改善するために作られた「水銀朱」の改良品でした。

 しかし、後に「水銀」や「カドミウム」等の重金属が社会問題となる時代に至り、それらを含まない「有機顔料」として仕様が変更されたのがこの「新王冠朱」です。

(※ 詳しい検証はされていませんが、「カドミウム」という言葉の破壊力を考慮して廃番になった「(旧)王冠朱」は、実際には特別な毒性はなかったのではないかと言われています。)

  「新王冠朱」には少しずつ色味の異なる「本朱」、「赤口」、「淡口」、「黄口」、「古代朱」の5種類のバリエーションがあります。

 こちらも「透素黒目漆(透漆)」と混合すると「朱漆」、「黒素黒目漆(黒漆)」と混合すると「潤漆」になりますが、顔料の色味や混合量、漆の硬化条件(塗膜自体の色味)によって色調は様々に変化します。

 混合量は、精製うるし:顔料=8:2~7:3(重量比)といった範囲。
 顔料の濃度が高いほど発色がよくなりますが、その分粘度が上って扱いづらくなります。





白色顔料 「パーマネントカラー(黒函)純白色」(二酸化チタン)


 白色顔料はうるしだけでなく、ほぼどんな塗料でも二酸化チタンの顔料が用いられています。

 ただし、うるしの場合は樹脂自体に茶褐色の色味がついているので白色顔料を混ぜた状態でもクリーム色からベージュのような色調になってしまい、一般の白い塗料のような色調の塗膜は得られません。

 「透素黒目漆(透漆)」と混合すると前述のクリーム色の「白漆」、「黒素黒目漆(黒漆)」と混合すると灰色をしたうるしになります。「白漆」は特に漆の硬化条件(塗膜自体の色味)による色調の変化が著しいのが特徴です。

 混合量は、精製うるし:顔料=4:6~6:4(重量比)といった範囲。




その他の色の顔料 「パーマネントカラー(黒函)」(有機顔料)


 赤色系と白色顔料以外の色は有機化合物の色素と二酸化チタン、硫酸バリウムからなる「有機顔料」の製品、「パーマネントカラー(黒函)」のラインナップを使用します。

 カラーバリエーションは

黄色系:「レモン」、「黄」、「山吹」
緑色系:「青竹」、「草」、「#12」
青色系:「藍」、「ピース紺」、「空」、「新橋」、「浅黄」
牡丹系:「牡丹」、「桃色」
紫色系:「藤」、「紫」、「赤紫」
黒色系:「黒」

などの種類があり、いずれも「透素黒目漆(透漆)」や「黒素黒目漆(黒漆)」と混合して、好み色調の色漆を作ることができます。

 また、それらの色漆同士や黒漆・白漆と混合することで、絵具のように色調を変えていくことも可能です。この際は、一度に複数の顔料をうるしと混合するのではなく、一種類の顔料で作った色漆同士を混ぜる方が均一な色調の色漆を作ることができます。

 混合量は顔料色によって異なりますが、精製うるし:顔料=9:1~7:3(重量比)といった範囲。